リバネスは、2013年より「TECH PLANTER(テックプランター)」を展開し、2020年より「未解決の課題”ディープイシュー”を、科学技術の集合体”ディープテック”で解決する」プラットフォームとして位置づけた。課題解決のために、様々な機関が少しずつ「ベンチャーファースト」に協調して動いた結果、エントリーチーム発掘は約10倍のペースへと向上し、大手企業や町工場のパートナーは初年度の8社から2020年度は55社に上るようになった。とはいえ、数よりも「実質」をお伝えしたい。テックプランターのエコシステムにおいて、どのようなことが起こるのか、ヒト、モノ、カネ、ミライ(次世代の育成)という観点を入り口に紹介する。
ヒト
以前から日本人は起業意欲が低いことが知られ、研究者のなかにアントレプレナーシップを持って社会実装へと進む意欲を持つ人が少ないことが課題であった。テックプランターを続けるなかで、様々なロールモデルが可視化され、社会実装を志す研究者が起業の道へ進むことが増えてきた。例えば、柳沢氏は、社会人経験を経て、研究を推進したいと大学院へと戻り、所属ラボの技術の社会実装のためにセルファイバへ参画した。坪井氏は、宇宙への想いから学生として研究に勤しみながら起業。現在は、 SPACE × AI ×GRID で途上国の農業問題や環境問題などの解決に貢献するサグリにて国内外で活動している。課題解決に挑戦する研究者が今後も増え続けるだろう。
モノ
従来、日本の町工場や地方の中堅中小企業はベンチャーの顧客ではなかった。深センや台湾の工場も、やりたいことベースでは相談には乗ってくれない。構想設計に悩む研究者やベンチャーはものづくりについて相談する相手がいなかったのだ。転機は、熟練の匠である浜野製作所が「ベンチャーのやりたいことを理解し、よりよりものを提案する」ことを実践してくれたことだ。今では、世界中のものづくり課題を解決することを目指す町工場のグループ、スーパーファクトリーグループを組成し、現在は 6 つのガレージが東京や大阪を中心に立ち上がっている。数多くのベンチャーの支援を推進し、試作から 100 -1000 個単位での量産体制構築まで整った。結果、ベンチャーが作りたいモノをスピード感もって試作することが可能となり、資金獲得への一歩を後押しまでできるようになったのだ。
カネ
テクノロジーの世界と金融の世界は共通語が少なく、魅力を伝えるのに苦労してきた。テックプランターのエコシステムを通じて、ベンチャーが自社の魅力を投資家や金融機関に伝えられるようになり、それを理解する人も増えた。また、従来にはいなかった小口投資の役割をリバネスキャピタルやグローカリンクが担うことによって、ベンチャーは成長段階に応じて、資金調達をできる体制が整ってきた。これによりテックプランター出身ベンチャーは直近 1 年で 100 億円以上の資金調達をしたと見られ、リバネスはグループ全体でこれまで 100 社以上 80 億程度の出資を実施してきた。
ミライ
出前実験教室を祖業に持つリバネスは、ベンチャーが早い段階から教育活動に関わり、次世代を育成することが大事だと考える。研究成果社会実装の過程で、市民の理解を得ていく活動も重要になる。教育活動を通じて、次世代の中から共感する未来の仲間が見つかることもあるだろう。硬直した教育現場にとってみても、「教科書に載っていない学び」の提供者が増え、身近になるという波及効果が生まれている。今、教育現場で求められている実社会と連動する学びの創出やアントレプレナーシップ教育を通じながら、ベンチャーと共に次世代も育っていくだろう。
出典:海浦航平 (2021). 創業応援 22, 20-21.