アグリテックグランプリ2023 審査員長あいさつより
株式会社リバネス 代表取締役社長COO 高橋 修一郎
アグリテックがもつ無限大の可能性
「地球はレゴブロックのようなもの」。私はそう考えます。我々は地球の中にある限られたパーツを使って色々なものを作り出してきましたが、これからの世界、人類の食を考えたとき、アグリテックの可能性は無限大だと思います。アグリテックは人類の存在に直結する技術であり、人間にとって未来永劫なくならない「食」という行為と密接に結びついた分野です。ならば、どうやって我々の食を支えるアグリテックを作っていこう。今日はそういった話をしたいと思います。
アグリテックに無限大の可能性がある一方で、地球上には課題が山積しています。増え続ける人口や環境問題にどう対応していくか、それを今私たちは突きつけられています。次の世代に対して、どんな世界、どんな地球を残していくのかというのが、私たちが今やらなければいけないことです。
今から2年後の2025年。この年に、世界の労働人口の75%がミレニアル世代になると言われています。超少子高齢化と言われている日本ですら、労働人口の半数がミレニアル世代になります。彼らは生まれた時から環境問題が身近にあり、何とか解決しなければと思っています。いかに持続可能な社会、持続可能な地球を作っていくかをずっと考えてきた世代です。
彼らが時代の主流になると、GDP成長を前提とした大量生産・大量消費ではなく、どういったエコシステムを作っていけばいいのかという考え方を基に生産や消費を行います。実際に近年、「共生型の社会」「分散型の社会」というキーワードが多く生まれています。アグリテックの分野ですと、例えばコンテナの中でできる植物工場を作ろう、養殖の技術を作ろう、エネルギーを生み出そう、ゴミをリサイクルしよう。そういったユニット型、分散型の技術がどんどん広がってきています。
さらにその先、今から50年後、100年後。我々の孫の世代、つまり分散型社会の先の世代は、地球を飛び出して宇宙で生活しているでしょう。その未来をつくるのは、今、生まれている分散型の技術です。
技術の集合体で課題を解決する
先ほど地球上には多くの課題があると話しましたが、それらの課題は実に複雑です。そのため、ただ一つの技術が人類を救うということはあり得ないでしょう。技術の集合体を作って課題に当たっていく必要があります。テックプランターは、まさにそういった技術の集合体をつくる場所です。
2014年の開始以来、これまで国内は2,000以上、海外でも1,300以上の仲間たちが情熱と専門知識を持ってこの場に集まってきてくれました。アグリテックグランプリは、形式的にはビジネスプランコンテストです。ファイナリストがここでプレゼンテーションをし、審査員が評価するというフォーマットではありますが、順位づけをしたいのではありません。ここにいる人たち皆がひとつになって地球の課題を解決し、来るべき「宇宙世紀」に備えて未来をつくる。そのチームの一員として今日は皆さんにここに集まっていただいたと思っています。
リバネスも単に運営をする組織ではありません。我々はもともと、大学にいた研究者が集まって立ち上げた研究者集団です。私たち自身が誰よりもリーダーシップを発揮し、プレイヤーとして未来をつくるために動いていくつもりです。
未来をつくる動きの実例を2つご紹介します。1つ目は、今年始まった「リバネス・フォレスト・プロジェクト」。中心にいるのは、テックプランターのフィリピン大会に出場したベンチャー企業・GALANSIYANG Inc.(ガランシアン)です。フィリピンは金や銅、ニッケルを産出する国であるがゆえ、さまざまな外資系企業が入ってきてフィリピンの山を掘って自然を破壊してしまいました。ガランシアンは何とか森林を再生させたいと、ドローンで植物の種子を土壌等の資材で球状に被覆した「シードボール」を撒くというプロジェクトに取り組んでいます。
昨年のアグリテックグランプリで最優秀を獲得した筑波大学の山路恵子先生は、「機能性微生物カプセル」というまさにシードボールを改善するような技術をお持ちでした。ガランシアンのプレゼンを聞いて「一緒にやろう」という話になり、さらにテックプランターのパートナーの皆さんを中心に多くの方が集まりました。そこで、各企業・各人が技術、知識、アセットを持ち寄って森林を再生する「リバネス・フォレスト・プロジェクト」が生まれました。まさに、こういったプロジェクトを生み出す場がテックプランターです。
もう1つの実例が「BeAGRI」というプロジェクトです。茨城県水戸市に、鯉淵学園という農と食に関する未来の生産者を育成する学校があります。そこにある23ヘクタールの圃場にさまざまなアグリテックを持ち込んで実証し、そこで生産される野菜を売っていくという道筋を作りました。
3社がすでに実証試験を始めており、アニテックというチームはフィリピンから自社開発のセンサーを持ち込んで鯉淵学園の温室でデータを取っています。このように、大学や企業などで生まれた技術が社会課題を解決するまで、リバネスがプレイヤーとなって先導していきます。
ご紹介した事例のようなプロジェクトに一緒に取り組める仲間が、今日はたくさん集まっています。ですからファイナリストの皆さん、リバネスのメンバーも含めて仲間を一人でも多く見つけることを考えて、ぜひプレゼンをしてください。
テックプランターは「知識製造の現場」だ
リバネスはこれまで、国内外の多くのチームにテックプランターに参加してもらい、知識のプラットフォームを作るべく奮闘してきました。その過程で気付きました。世界の課題を解決するために必要なのは、知識を組み合わせて新しい知識を製造することです。
我々はそれを「知識製造業」と名付けました。知識製造業というのは一人ひとりが持っている知識を組み合わせて、新しい知識を生み出すことに他なりません。企業が持っている既存の事業だけでなく、企業の中にあるアセットやノウハウ、あるいは文化や思いも含めて知識です。そういったものを組み合わせて、世界の課題をやっつけにいく。テックプランターはまさに、知識製造の現場なのです。
今日は、課題感(Question)と情熱(Passion)に裏付けされた12のアイデアがこの場でプレゼンされます。どのような知識製造ができるか。審査員長として私が一番脳みそに汗をかいて、皆さんと「こんなことができないか」という話をするつもりです。
知識製造業の新時代がやってきます。今日この場が、アグリテックにおいて最も進んだ知識製造の先端の点になると信じて、皆で知識を組み合わせていきましょう。