エコテック – 生物だけでなく人工物まで含めた物質の循環を考える –

2024/03/14
INDEX
  1. 01エコテック分野で重要となる「循環」と「調和」
  2. 02「知識製造業」として主体的に課題解決に取り組む

エコテックグランプリ2023 審査員長あいさつより

株式会社リバネス 執行役員CHO 長谷川 和宏

人工物の総重量が生物の総重量を上回った

1兆1,000億トン。突然ですが、何の数字だと思いますか?
世界中の生物の総重量です。2020年、イギリスの科学雑誌『ネイチャー』に非常にインパクトのある論文が掲載されました。この1兆1,000億トンという生物の総重量を、人間が作った人工物の総重量が上回ったという報告です。

20世紀初頭、生物対人工物で見た時に人工物の比率はたったの3%だったそうです。それが、この100年余りで生物の総重量と同じぐらいのボリュームまで増加し、20年後2040年頃には、人工物の総重量は3倍以上になるであろうという予測がされています。現代が、物事が加速度的に進んでいく時代であることを象徴する記事だと思います。人工物が悪いものだと言いたいわけではありません。人工物が非常に増えている状況がある、という事実をお伝えしたいのです。

そして、今回テックプランターの領域のひとつであるアグリテックグランプリの冒頭で、リバネス代表の髙橋修一郎が「地球はレゴブロックのようなものだ」というお話をしました。これが意味するところは、地球上にあるあらゆる物質は全てが循環しており、何かが急になくなったり増えたりすることはなく、地球上のすでにある物質の中でさまざまなものが作られ、積み上げられているということです。

人工物の総重量が生物の総重量を超えて増えていくこれからの時代においては、恐らく生き物を中心とした循環の系だけでは地球上の循環は成立しないでしょう。生物だけでなく人工物まで含めた物質の循環を考えていくことが、これから非常に重要なテーマになってきます。

エコテック分野で重要となる「循環」と「調和」

そして、このエコテックグランプリについてです。リバネスでは、毎年9月から10月にかけてテックプランターという枠組みの中で、さまざまな分野のディープイシュー(未解決の課題)を集め、それにタックルしていくディープテックの皆さんの技術の集合体をつくる取り組みを続けてきました。

ディープテック、アグリテック、バイオテック、マリンテック、メドテック、フードテック。あらゆる分野において社会課題が存在します。ではこのエコテックはどういう分野なのか。私自身は、地球上にあるあらゆる課題の解決と、同時並行で行わなければいけない社会課題の解決。これを持続可能にしていく技術こそがエコテックであると考えています。ですから、このエコテックという分野は「循環」と「調和」という2つのキーワードが非常に重要になってきます。

私たちは今、大きな変革、新時代を迎えつつあります。人工物はこれからさらに増えていきます。私たちの生活が豊かになっていく上で、そして世の中の課題を解決していく上でこれは避けられません。同時に、それとどう調和していくかを考えるのが、我々が歩んでいくこれからの時代です。

このテックプランターは、もともと研究開発型のスタートアップがどうやって成長していくかというアクセラレーションプログラムからスタートしました。そして現在は、いろんな方々が持ち寄った知識とコアテクノロジーを組み合わせて、さまざまな課題を科学技術の集合体=ディープテックで解決しようという大きなプロジェクトになりました。

今日来ていただいているファイナリストの皆さんのような、解決したい課題と、それを自分たちの技術で解決していくんだという思いを持った企業が、国内だけでも2,200チーム、東南アジアを含めると3,500以上集まってきています。それぞれがリーダーシップを発揮して課題解決に向けて邁進しています。

「知識製造業」として主体的に課題解決に取り組む

リバネスも大きなチャレンジを続けています。もともと我々は「知識プラットフォーム」を会社のブランドとして掲げてきました。さまざまなテクノロジーや知識が集まってきて、そこで新しい技術が生まれて課題解決ができる、そんなプラットフォームです。それをさらに発展させて、2023年に「知識製造業」としてリブランディングしました。これは、皆さんに「場」を提供するプラットフォームという形式から一歩踏み出して、我々自身もリーダーシップを持って課題解決に主体的に取り組んでいくことを意味しています。

リバネスでは今年、「リバネス・フォレスト・プロジェクト」を立ち上げ、推進しています。これはフィリピンで出会ったベンチャー企業・GALANSIYANG Inc.(ガランシアン)が中心となってスタートしました。自国には、採掘した後の鉱山がハゲ山のまま放置されています。そこに豊かな緑を取り戻したいという課題意識とコアテクノロジーを持った会社です。我々はそのメッセージを受け取ったときに、森林を取り戻すのは彼らの課題ではあるけれども、同時に日本や他の世界の地域においても大きな課題であると考えました。そこで、この課題解決にはあらゆる業種・規模の会社のテクノロジーと思いが必要だと考え、テックプランターに参加していただいているパートナー企業やスタートアップ、またこの枠組みの外にいる企業も巻き込み、プロジェクトを立ち上げたのです。

知識と知識の組み合わせによって新しい知識を作り出していくこと。そしてその知識を持って未解決の課題を解決すること。これがリバネスが掲げる「知識製造業」です。この枠組みの中には今日来ていただいているファイナリストの皆さんも含まれますし、審査員の方々、パートナー企業の皆さんも含まれます。皆さんと一緒に未曾有の課題を解決していく。これが、知識製造業で目指している世界観です。

テックプランターはビジネスプランコンテストでもなければ、皆さんを評価する場所でもありません。世界中にある、あらゆる課題をここにいる皆さんと一緒に解決していく知識製造の現場です。重要なのは、皆さんにとっての課題が何なのか、皆さんのパーソナルな情熱は何なのか。それだけは絶対に伝えてください。他の部分は皆で考えていくことはできますが、課題感(Question)と情熱(Passion)は本人にしか語れません。これを必ず我々に届けてほしいと思います。

審査員の皆さん、今日のプレゼンの中には話を聞いてもピンとこないものもあるかもしれません。分野も多岐にわたりますし、それぞれの専門分野もあるので当然です。会社の代表として来ているという立場もあるでしょう。しかし、物事を進めていくときに最終的に重要になるのは個人の情熱や感性です。ですから、ぜひファイナリストの視点と感性を感じ取ってください。

そして、リバネスのメンバーがリーダーを務めます。先ほどお話しした通り、知識製造業においてリバネスは自分たちが主体となって課題解決に取り組んでいきます。ここにいる多くの人たちを巻き込んで、我々がリーダーシップを発揮して課題解決を進めていきます。

最後に、改めてお伝えします。今時代は大きく変化しており、これから知識製造業の新時代が来ます。その新時代のスタートとなる今日この時間を、皆さんと一緒に過ごしていきたいと思います。今日はよろしくお願いします。