フードテック – 食の課題を解決し、人と地球の調和をもたらす

2024/03/14
INDEX
  1. 01知識製造を生業にして課題を解決していく
  2. 02テックプランターで「共生体」を生み出す

フードテックグランプリ2023 審査員長あいさつより

株式会社リバネス 執行役員 塚田 周平

食は、人と地球をつなぐ接点

「食」とは何でしょうか。皆さんそれぞれに考えがあると思いますが、まずは私の考えを述べさせてください。

私が高校の教科書で一番感動したのは「物質循環」です。地球上の物質は、生物とそれ以外の地球環境とで常に循環しています。例えば炭素は、植物が二酸化炭素を吸収して有機物に変え、それらを動物や我々人間が食べて、死んだらまた地球に還っていきます。このように、常に地球環境と生き物の間を物質が循環しています。そう考えると、人にとっての食、これは人と地球をつなぐ接点であると言えます。そして、ここに時間軸を加えて考えるとどうなるか。東アフリカで人類が始まって500万年、その長い歴史の中で常に我々は食べ物と向き合ってきました。

恐らく最初は、石で斧を作り植物や動物を採っていたと思います。その次に登場したのが料理です。火を使って食材を食べやすくし、栄養の吸収を良くする技術です。そして、人類は大移動してきました。食べ物を探して大移動する際も、何らかの技術が必要だったでしょう。移動するのをやめ定住したときに生まれたのが、農業や畜産といった生産の技術です。そこからさらに、微生物を使って発酵させたり逆に邪魔な微生物を殺したりして、栄養価を高めたり長期に貯蔵するといった技術を生み出してきました。

人の歴史のほぼ全てが食とともにあったと考えると、今あるさまざまな技術は、食と向き合うことから生まれてきたと言えるのではないかと思います。生まれた技術を利用して我々は生き延び、また脳を発達させて進化してきました。つまり食とは、人類が技術を持って進化してきた、その源であると思います。

ただ一方で、生まれた技術で人類が進歩してきた結果、今世界にはたくさんの課題があります。例えば、さまざまな自然的資源を使うことで我々自身の健康を害したり、地球に負担をかけたりしています。

今日このフードテック分野で考えていきたいのは、「地球と人に調和をもたらし、新時代に使われる技術を生む」ということ。物質の調和と、新しい時代にきちんと使ってもらえる技術を生み出していこうというのがテーマです。

今地球上にある課題は、既存の技術や事業では解決されないからこそ残っているものです。ファイナリストの皆さんが持っている技術、そしてパートナー企業が持っている技術というように、複数の技術を組み合わせることが非常に重要です。テックプランターのコンセプトは「未解決の課題(ディープイシュー)を科学技術の集合体(ディープテック)で解決する」です。まさに技術の進化を加速する場と言えます。

今日は11のチームにプレゼンしていただき、科学技術の集合体を生んでいこうと思っています。そしてその先で、さまざまな未解決の課題を解決していけるはずです。そのための進化の1日だと捉えていただければと思います。

知識製造を生業にして課題を解決していく

我々リバネスも、2023年に大きく進化することを決意しました。今までリバネスは「知識プラットフォーム」を名乗ってきました。これは祖業として取り組んでいる実験教室から始まり、教育応援プロジェクト、人材応援プロジェクト、研究応援プロジェクト、そしてこのテックプランターが主要なプログラムである創業応援プロジェクトとして、事業を展開してきました。技術が生まれて社会実装されていくまでのプラットフォームとしてこれらを築いてきたわけです。

知識プラットフォームを作っていく取り組みがうまく回るようになってきたら、その次に我々は何をつくるのか。そこで掲げているのがこの「知識製造業」です。知識プラットフォームを使って自分たちが何をしていくのかと改めて問うたときに、知識製造を生業にしていくのだという認識に至りました。そして、社名ロゴの下の文字もこれまでの「The Knowledge-based Platform」から「The Kowledge Manufacturing Company」に変更し、我々の決意を表明しました。

では、この知識製造業とは何なのか。我々は「知識と知識の組み合わせによって新しい知識を作り出すこと」だと考えています。つまり最初に話したように、新しい時代に向かってここから技術を生んでいく。フードテックで我々は食に向き合うことで、そこを起点に技術を作っていく。そして、新しい知識によって未解決の課題を解決する。そういうことをやりたいと思っています。

フードテックグランプリは、形としてはビジネスコンテストに近いものになっています。しかし、我々はビジコンとは思っていません。今日ここに集まっている人たちが持っている知識を組み合わせて、新しい知識を製造する。それは、食を起点とした課題、食が抱える課題を解決するためです。その現場が今日のこの1日だと考えていただければと思います。

テックプランターにはこれまで、国内と東南アジア6カ国合わせて3,500を超えるチームが集まってきています。その中でアグリやフードといった分野のチームは500を超えるようになってきました。これまでの知識も活用しながら、新しいものを生んでいこうと思っています。

テックプランターで「共生体」を生み出す

さて、過去に生まれたプロジェクトをいくつかご紹介します。2020年の第1回でファイナリストになったIra Noah Pte.Ltd.(イラノア)。東南アジアのベンチャー企業ですが、今我々は同社の方と合弁会社を作り、サステナブルフードとは何かという定義を日本と東南アジアに広げようというプロジェクトに取り組んでいます。「Minimal」というビーントゥバーのチョコレートを作っている株式会社βaceは、スーパーファクトリーグループの1社と組み、より美味しくて効率の良いチョコレートを作るためのシステムを作り始めています。
そして昨年のファイナリストのASTRA FOOD PLAN株式会社は、パートナー企業の株式会社吉野家と組んでタマネギの端材をアップサイクルし、さらにベーカリーチェーンのポンパドウルと組んでパンにするところまで、たった1年で進んできています。

昨年、最優秀賞を獲得したKOJI LABOはパートナー企業と共同研究を始めて、今まさに実装に向かって進んでいます。こうした多くの「コト」が起きるのがテックフランターという場です。今年のファイナリストの皆さんも、自身がやりたいこととパートナー企業の持っているアセットを組み合わせて、ぜひこの場から新しいプロジェクトを生んでいってください。

私はマメ科植物の共生の研究をしていたこともあり、テックプランターは「共生」の場と言えるのではないかと考えています。お互いが持っている強みを組み合わせることで、今までできなかった課題解決を実現していく共同体。つまり「共生体」なのではないかと。ですから、ファイナリストの皆さんにも審査員の皆さんにも、共生体を生み出す意識で積極的にコミュニケーションをとっていただければと思っています。

ファイナリストの皆さん、今日のためにプレゼンテーションを磨き抜いてきたと思います。ただ、求めているのは美しいプレゼンテーションではなく、皆さんが持っている課題感(Question)と情熱(Passion)を思い切りぶつけてほしいということです。そして審査員の皆さん、パートナー企業の皆さん、今日は御社・弊社といった垣根はありません。皆さん一人ひとりが持っているパッション、それから視点、感性、直感を信じて、知識を組み合わせることを意識して取り組んでいきましょう。

リバネスのみんな、我々がリーダーです。思い切り脳みそに汗をかいて、ファイナリストのプレゼンを聞いてここからどんなプロジェクトを生んでいけるのか考えて、パートナーの皆さんと話しながら今日この場でプロジェクトを作っていきましょう。どうぞよろしくお願いいたします。