バイオテック – 生物を知り、生物の力を引き出すことで地球の課題を解決する –

2024/03/14
INDEX
  1. 01これからのバイオテクノロジーをどう作っていくか
  2. 02掛け合わせで新しいコトを生み出していく
  3. 03「知識製造業」で課題解決のギアを1段上げる

バイオテックグランプリ2023 審査員長あいさつより

株式会社リバネス 執行役員 髙橋 宏之

これからのバイオテクノロジーをどう作っていくか

皆さんこんにちは。これからバイオテックグランプリが始まります。今回も非常に尖ったアイデア、プランを持っているファイナリストの皆さんが集まってくださいました。今日この場でどんなことができるのかを色々と考えてきたので、最初にお話しさせてください。

そもそもバイオテクノロジーとは何でしょうか。元をたどると、35億年前に地球上に酸素を作る生命体が生まれたところが最初ではないかと思います。すなわち、生物が酸素を作るという化学のプロセスの誕生です。

そこからさらに、太陽の光を使って水と二酸化炭素から有機化合物を作ったり、酸素を使ってエネルギーを作る微生物が生まれるなど進化を重ねた結果、人間のように何兆個というさまざまな細胞の塊が動くところまで進化してきたわけです。

生物がそうした進化の過程で培い蓄積してきた力を、我々人間が生かすことがバイオテクノロジーという産業なのではないかと思います。そう考えると、これまでのバイオテクノロジー産業は生物の力のごく一部の部分、例えばAという物質をBに変えるプロセスをうまく切り出して利用することに留まっていました。

このバイオテクノロジーのあり方では、地球にある資源を使えば使うほど資源の減少や枯渇といった事態に陥ります。そのため、現在はバイオテクノロジーのあり方を変えていこうという動きが現れ始めています。新しい時代に向けて、これからのバイオテクノロジーをどう作っていくかということを、今日、皆さんと一緒に議論していきたいと思っています。

どんな風にバイオテクノロジーが変わっていくのかを、自分なりに考えてみました。1つは、生物がどんなものを持っているかを探る、「生物を知る」技術です。そしてもう1つは、「生物の力を引き出す」技術。これまでは、生物の力を制御したり、一部を切り出したりして使うことがメインでしたが、これからは、生物と互いに共存し、生物の力をうまく引き出すことで製造のプロセスを効率化することが非常に大事になってくるのではないかと思うからです。

今日の12組のファイナリストの皆さんも、この「生物を知る」と「生物の力を引き出す」という2つに関して強い思いを持っているのではないかと感じています。

掛け合わせで新しいコトを生み出していく

ただ、個々の技術が突出しているだけでは、それを社会に届けることはできません。ファイナリストの皆さんが持ってきた新しいテクノロジーと、審査員の皆さんが持っている豊富なノウハウやアセットを掛け合わせることで、新しいコト、新しい産業をつくっていく。そういったことを、この場から実現していきたいと思っています。

今日はバイオテックグランプリの第10回ですが、その前身は「バイオサイエンスグランプリ」です。2014年に初開催した第1回バイオサイエンスグランプリの最初のプレゼンターであり、最優秀賞を受賞された株式会社メタジェンの福田真嗣さんに、今日は審査員として参加してもらっています。

メタジェンは、福田さん、山田さん、水口さんという3人の研究者がチームになって生まれた会社です。グランプリ出場当時はまだ会社組織になっていませんでしたが、腸内細菌で何か面白いことができそうだという話になり、会社を立ち上げ、そこからさまざまな事業会社を仲間にしてきました。リバネスも伴走しながら、腸内細菌に関する取り組みを展開してきました。2014年当時、腸内細菌叢はアカデミアの中だけで話題になる存在でした。しかしメタジェンのような会社が誕生したことで、今では一般消費者にまで浸透している言葉になっています。今日のファイナリストの皆さんにも、そういった世界を築いてほしいと思います。

メタジェンはヘルスケアの課題に対してアプローチしていますが、世界には食糧、環境、エネルギーなど多分野にわたり課題が存在しています。これらの課題を、生物が持っている力をうまく引き出すことで解決できないか、この場から皆さんと一緒に始めさせてください。

「知識製造業」で課題解決のギアを1段上げる

リバネスは、未解決の課題を科学技術の集合体で解決する取り組みを続けています。「集合体」というのは単なる寄せ集めではなく、思いを持った人たちが集まったチームがあり、その思いにさまざまな事業会社が巻き込まれていくことで作られると思います。皆さんがこの場で自分の思いをぶつけることでディープテック(科学技術の集合体)が生まれ、課題解決が実現するのです。

2014年から開始したテックプランターには、これまでに、東南アジアも合わせると全体で約3,500チーム、つまり3,500の課題と技術が集まってきました。今まで集まった課題に対しても、この場にいる皆さんとチームを作ることで一緒に取り組んでいける可能性があると思っています。

2002年の会社設立時から「知識プラットフォーム」を目指して活動してきたリバネスは、テックプランターに出場している皆さんも含め、大学で研究している学生や院生、先生方、中高生などの次世代を担う人材、事業会社、ものづくり企業などとコミュニケーションをとることで仲間を増やし、未解決の課題に挑む人々の集合体=プラットフォームを作ってきました。そうして、「この課題はあの人とあの会社が一緒に取り組むことで解決できるのではないか」と提案をし、実際にプロジェクトを立ち上げてきました。

この活動のギアを1段上げてさらに加速していくため、2023年からリバネスは「知識製造業」を標榜しています。知識製造とは、知識と知識を掛け合わせて新しい知識を生み出すこと、それによって課題を解決していくことを指しています。

今日この場でも、リバネスのメンバーが皆さんを巻き込みにいきますし、逆に皆さんもリバネスを巻き込んでほしいと思っています。巻き込み/巻き込まれる動きがたくさん回っていくことで、課題を解決する新しいテクノロジーが生まれてくるはずです。その実行の場がテックプランターです。皆さん、ぜひここで議論を交わしていきましょう。

これから知識製造業の新しい時代が来ます。今まさにこの場で、その動きが起ころうとしています。本日はどうぞよろしくお願いします。