メドテック – 命をつなぐことと、地球への貢献の実現。両者は同一線上にある –

2024/03/14
INDEX
  1. 01ポストコロナ時代、薬の開発スピードは加速する
  2. 02「知識製造」で世界を変えていく

メドテックグランプリKOBE2023 審査員長あいさつより

株式会社リバネスキャピタル 取締役 花井 陳雄

会社対会社ではない「仲間作り」をしよう

皆さまこんにちは。本日、審査委員長を務める花井です。まず自己紹介させてください。私は今、リバネスキャピタルの取締役をしておりますが、以前は協和キリンの前身である協和発酵の社長、会長を歴任しておりました。

もともと私は企業研究者で、40年前から抗体医薬の研究に長く取り組んでいました。当時は会社が私の研究価値をなかなか認めてくれず、アウトサイダー的な立ち位置でした。それでも2000年代の初めに会社から出資を得て、米国のニュージャージーでBioWaというベンチャー企業を立ち上げました。このBioWaで作った抗体技術の導出ビジネス、それからその技術を入れ込んだ抗体医薬の臨床開発が、出資した親会社の予想に反して大成功しまして、それ以来私の運命は変わりました。

成功の理由を考えると、その1つに米国のバイオテックコミュニティーの環境があったからではないかと思います。米国に行ってベンチャーを立ち上げたら、すぐこのバイオテックコミュニティーに入れてくれるのです。君は仲間であると。コミュニティーは個人のつながりで、会社を代表しているわけではありません。ベンチャー企業の人、メガファーマの人、大きなバイオテック企業の人もいる。そういうコミュニティーの仲間に入れてくれるんですね。そういった関係性の中で契約などの話も順調に進んでいきました。

リバネスがここでやろうとしてることも、私が米国で経験したコミュニティーと同じような「仲間づくり」です。ここに集まったベンチャーの皆さん、大学の先生、会社を代表して来ている審査員の皆さん。ぜひ今日は、お互いを仲間だと思ってください。それぞれが持っている知識、技術、それから情熱、そういったものを集合して課題の解決に向かっていきましょう。

ポストコロナ時代、薬の開発スピードは加速する

ここでスケールの大きな話をします。我々はなぜ命を大切に思うのか。宇宙や地球という起点から考えてみます。地球が誕生してから46億年、生命、単細胞生物が誕生して35億年と言われています。そして多細胞生物が生まれたのはおよそ6億年前だそうです。

多細胞生物が生まれて、それからオスとメスに分かれて生殖をするようになると、何が起こるか。生殖細胞の中で遺伝子の組み替えが起こり、減数分裂が起きて爆発的な多様性が生じて、それによって我々人類の誕生につながるような生物の進化が始まりました。それと引き替えに、生物は病気になったり老化したり、死ぬようになりました。

私たちホモサピエンスは、実はある意味では特別な存在です。ほとんどの動物は生殖能力がなくなると死にます。ところが、ホモサピエンスは生殖能力がなくなってもその後の寿命が長い。これはなぜかというと、「おばあちゃん仮説」というものがあります。おばあちゃんは生殖能力がなくなっても知識や経験をもって自分の家族を守ったり、子育てをすることができる。つまり、おばあちゃんがいることでホモサピエンスは進化して繁栄してきたのだという仮説です。ちなみに、「おじいちゃんは何をしていたのか」については、私も分かりません(笑)。

命を大切にすることは、進化して繁栄するうえで非常に重要です。そして、我々人間が生命を大切にするというと、医療の話になります。医療の歴史に関しては、古代エジプトや古代ギリシャに記録が残っており、その時代の最新科学と最新技術を組み合わせて医療を向上させてきたことがわかっています。

それが延々と繰り返され、21世紀になるまで実に多くの薬が開発されました。長年薬づくりに身を置き、たくさんの良い薬が開発されるのを目の当たりにしてきたこともあり、不遜にも私は多くの病気はいずれなくなっていくだろうと思っていました。そう思っていた矢先に、コロナ禍が起こりました。

カタリン・カリコ氏、ドリュー・ワイスマン氏が、コロナウイルス感染を予防できるmRNAワクチンの開発でノーベル賞を受賞しました。もしこのワクチンがなかったら、我々は果たしてコロナを乗り越えられたのかどうか。これは大きな問いではないかと思っています。

ポストコロナの時代になり、製薬業界で生きてきた人間として私が考えているのは、恐らく薬の開発は非常にスピードが速くなるということです。早期承認制度、仮承認といった制度もできたことから、製薬企業側も相当スピードを上げていかなければなりません。その時に、やはりベンチャー企業と大企業、そして上場スタートアップのような中堅企業の組み合わせがカギになるはずです。まさに今、皆さんが集まっているこの場で、仲間を作っていくことが大切だと思います。

そしてもうひとつ、我々人類は繁栄していった一方で、勝手な振る舞いにより環境を壊してきました。今、地球には多くの課題が山積され、大変なことになっています。そのため、命をつなぐことと、地球への貢献を実現することは同一線上になければならないのではないか。このポストコロナの時代に、そのことを真剣に考えていく必要があるのではないかと考えています。

「知識製造」で世界を変えていく

繰り返しになりますが、世界には山ほどの課題があります。このままでは人類の未来は危ういという議論も盛んにされています。リバネスではこのテックプランターという枠組みを作り、我々がディープイシューと呼んでいる未解決の課題を科学技術で解決しようと考えています。

科学技術といっても一つひとつは微力かもしれません。しかし、複数のプレーヤーが知識と技術と情熱を持ち寄りそれらを合わせた集合体=ディープテックを作れば、困難な課題であっても解決していけるのではないか。このメドテックグランプリは、ディープイシューに出会い、ディープテックを生み出す場だと考えています。

テックプランターはリバネスが2014年から始めた取り組みです。日本とアジアでのエントリーチーム数はもう3,500を超えています。これは3,500の仲間がいるということです。リバネスは今年から「知識製造業」が正業であると宣言しています。知識製造業とは何か。「知識と知識の組み合わせにより新たな知識をつくり出すこと、そして新たな知識によって未解決の問題を解決すること」と我々は定義しています。

メドテックグランプリはまさに知識製造の現場です。世界を変えたいと思っているベンチャー企業の方々もたくさんいると思います。重要なのは、世界と真剣に向き合って見出した問い=クエスチョン、そしてなんとしても課題を解決して世界を変えるのだという情熱=パッションです。これからプレゼンテーションをするファイナリストの皆さんには、ぜひ自分のクエスチョンとパッションをぶつけていただきたいと思います。

審査員の皆さんも仲間です。プレゼンテーションに対して否定的にならず、こういう技術ならこれと組み合わせたらいいのではないかなど、ポジティブな発言をいただけると嬉しいです。ぜひ皆さんの個々の感性や直感を信じて審査に向き合ってください。

それから、リバネスのコミュニケーターたちを紹介させてください。彼らは技術と社会をつなぐリーダーです。その役を一生懸命、務めようと意気込んでいます。ぜひ会場の皆さんも声を掛けて彼らを活躍させてください。

さあ、知識製造がここで始まります。頑張っていきましょう。